出版業界にも高齢化の波が押し寄せる [社会]

佐藤愛子氏の「90歳、何がめでたい」など、高齢著者による書物が今日本で、ブームとなっているという現象をイギリスのメディア、エコノミストが記事として取り上げています。

これからは高齢の読者を対象にした書物がコンビニの店内などで見られるようになるとのことですが、果たして高齢者層に読書ブームが巻き起こるのでしょうか。

日本では高齢者による高齢者のための小説ブームが巻き起こっている
Economist  2019/2/23

出版市場が高齢化するにつれて、作家や小説のテーマも高齢化してきている

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「日本語訳」
文学は人生について考えさせてくれる。高齢化の進む日本でも高齢著者による書物が数多く大ヒットしている。「90歳。何がめでたい(“Age 90: what’s so great about it?”)」は、95歳になる佐藤愛子氏が筆を執ったものだが、高齢者が出くわす人生上の困難についてユーモアあふれたタッチで書かれている。この作品は2017年には100万部売れ、その年のベストセラーとなった。2018年には63歳の若竹千佐子氏が芥川賞を受賞、デビュー作となった「おらおらでひとりいぐも(“Live by Myself”)」では74歳の一人暮らしの桃子さんが主人公。

こうした書物では高齢者の生き方が描かれていているが、生い先が暗い人生ばかり描かれているわけではない。例えば、未亡人の桃子さんは自分で生きていくすべを学んでいく。70歳の内館牧子氏の作品である「終わった人(“The Finished Person”)」では「定年って生前葬だな。」という出だしで始まり、会社を定年退職したサラリーマンの冒険についてー若い女性に恋をしたり、自分の生まれ故郷に戻ることーなどが描かれている。内館氏のもう一つの作品である「すぐ死ぬんだから(“Going to Die Soon”)」では残された人生を精一杯生きていこうとする元気いっぱいの78歳になる酒店を経営していたハナさんのことが描かれていている。このような小説は終活本と呼ばれていて、高齢になるということとはどういうことなのかについてより深く読者に考えさせてくれる。

日本は65歳以上の高齢者が人口に占める割合が世界一で28%となっている。人は健康で長生きするようになってきたが、定年後少なくとも20-30年は暮らしていく人が多くなってきていて、その間のほとんどを元気で暮らしている。日本人はあまり本を読まない国民だとこれまで言われてきたが、60歳以上の高齢者にはそれはあまり当てはまらない。コンビニエンスストアのローソンでは最近、高齢者層を念頭に置いた書籍を店内に置くことを決めた。

しかしながら、こうした高齢者が書いた本は若い読者層も取り込んでいる。東京に拠点を置く書籍調査機関のRIPによると、若い読者の中には、来るべき自分の高齢人生の準備をしたり、自分の周りに高齢者がどんどん増えていくことを理解しておきたいと思うようになる人もいれば、孤独といったテーマと関連のある事や、高齢問題のずっと先に待ち構えている問題などについて気が付くようになる人もいるという。五木寛之のベストセラーブックで啓発本の「孤独のすすめ(“Recommendation for Solitude”)」では86歳になる著者が「古き良き時代」の思い出に浸ることを勧めている。

こうした新しいジャンルでの一番の特徴は、RIPによると、著者の大半が、そして本の中で描かれている主人公は女性であるということ。特に人気がある作家は、佐藤愛子氏のようなアラハン(年齢が100歳前後の人)と呼ばれる作家である。この本のおかけで人生をもっと前向きに考えていくことが出来るようになったと読者は話している。こうした傾向が出てきたのは、女性の平均寿命が延びてきているからだけではない。こうした書籍に人気が出てきていることで、高齢社会を支えている社会制度について考えさせられたり、仕事に情熱を持って働いている強い女性たちに対して支援の手を差し伸べるといった傾向も見られるようになったのだが、こうしたことは今日の日本では異例の現象である。


九十歳。何がめでたい

九十歳。何がめでたい

  • 作者: 佐藤愛子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/08/01
  • メディア: 単行本




おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

  • 作者: 若竹千佐子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/11/16
  • メディア: 単行本



終わった人 (講談社文庫)

終わった人 (講談社文庫)

  • 作者: 内館 牧子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 文庫



すぐ死ぬんだから

すぐ死ぬんだから

  • 作者: 内館 牧子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/08/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



孤独のすすめ - 人生後半の生き方 (中公新書ラクレ)

孤独のすすめ - 人生後半の生き方 (中公新書ラクレ)

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/07/06
  • メディア: 新書


※「終わった人」は舘ひろし、黒木瞳主演で2018年映画化された。

「英文記事」
In Japan, there is a boom in books by and for the elderly

As the market ages, so do the authors and themes
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The Economist 2019/2/23

LITERATURE REFLECTS life. So in ageing Japan there is a raft of smash-hit books by aged authors. “Age 90: what’s so great about it?” is a humorous essay on the difficulties of the elderly, by Aiko Sato, who is 95 and wrote it with a pen. It sold 1m copies in 2017, making it Japan’s bestselling book that year. In 2018 the Akutagawa literary prize went to Chisako Wakatake, 63 at the time, for her debut novel “Live by Myself” with its 74-year-old protagonist, Momoko.

The books talk about how to live in old age, and it is not all doom and gloom. The widowed Momoko, for example, learns to live on her own. “The Finished Person” by Makiko Uchidate, who is 70, opens with the line “retirement is a living funeral” before going on to depict the adventures of a retired salaryman, including falling for a younger woman and returning to his home town. “Going to Die Soon”, also by Ms Uchidate, features 78-year-old Hana, a vibrant former alcohol-shop owner trying to make the most of her remaining years. The novel has been called a book for shukatsu, or preparing for death, making readers think more deeply about what it means to age.

Japan’s population has the world’s highest proportion of over-65s, at 28%. People are living longer and staying healthier, so many have at least 20-30 years of retirement, for much of which they are sprightly. And although the Japanese have been spending less on books, that is least true for the over-60s. Lawson, a convenience-store chain, recently decided to stock books with the older generation in mind.

But the wrinkly writers’ books are attracting younger readers, too, according to the Research Institute for Publications (RIP), a body in Tokyo. Some are preparing for their own old age or want to understand the increasing number of old people they see around them. Others find relevance in the themes explored, such as loneliness, a problem that stretches well beyond the silver-haired. In Hiroyuki Itsuki’s blockbuster self-help book, “Recommendation for Solitude”, the 86-year-old author promotes reminiscing about “the good old days”.

The most notable feature of the new genre is that the vast majority of authors, and main characters, are women. Especially popular, says the RIP, are the ara-hun (“around-hundred” years-old) writers like Ms Sato, whose book, readers say, helps them be more positive. It is not just that women have a longer life expectancy. Their popularity, reckons the institute, also reflects support for strong women who are passionate about their work, a phenomenon that is all too rare in Japan today.




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